模擬店の権利売買は禁止されています

エピローグ 僕は大学生の頃、学園祭の実行委員会(の下に属する事務局)に身を置いていたのだけれど、その組織は学生運動の名残か、なんでもかんでも立て看板を使って周知しようとしていた。マクドナルドにうんこ色を強いる条例が強化される以前、学内に足場…

夏の夜・実家

実家は川筋の斜面に建っていて、川筋側の窓は視界を遮るものが何もない。夏の夜でも窓を開ければ風がよく抜けて、エアコンをつけることはほとんどない。家族は僕を残して全員就寝し、僕はひとり、窓のそばでパソコンを叩いている。窓の外では虫の鳴き声がし…

30歳になったので20代を振り返る

30歳の誕生日を迎えた。認めたくはないが、日々齢を重ねていることを感じざるを得ない。ほうれい線は深くなり、髪の毛は白いものが混ざるようになった。赤身は食べられるが、脂身や霜降りは2切れもあれば十分だ。むしろ焼き魚がほしい。酒を飲むととにかく眠…

同じ釜の飯を食う

新卒で入社した会社の同期と集まって飲んだ。入社したとき14人いた同期は、4年半が経って6人になった。もう2回目の転職をした奴もいる。景気がいいからなせる業なのだけど、人は、思った以上に簡単に職を変えるということを、就職してから知った。同期って、…

メイヤーレモン

朝、出勤してLINEを開けると、野菜の注文が入っていた。今日中の納品希望と書いてあるけど、もう配送トラックは出発してしまった。結局、自分で調達して、自分で運ぶことにした。社用車(中古の三段変速自転車)に乗って、築地場外に行く。場外は遅い時間(…

そのまま、キラキラしておいて

弟と一緒に、ファミリーセールというものに初めて足を運んだ。正規の販売ルートで買えばそこそこの値段がするスポーツアパレルのブランドでのセールなのだけど、弟に届けられた招待ハガキは、上野の現金問屋が処分市を開くかのような、青地に蛍光黄文字のビ…

まずは、楽しいところから

本を読むようになった。スマホを触らないようになり、手持ち無沙汰になる時間を埋めるように、文庫本の小説を読んでいる。読むのはもっぱら電車に乗っている時間やホームでの待ち時間で、細切れではあるけれど、毎日30分から1時間ほどのボリュームになる。40…

酒に呑まれないために、飲まない

お酒が弱くなった。決して昔から強かったわけではないけれど、それでも、飲み方を間違えなければ、次の日は普通に起きて、普通に働くことができた。最近はそれができない。1杯でも飲むとすぐに眠くなる。翌朝起きたとき、疲れがまったく抜けていない。午前…

体のシグナルに耳を傾ける

横浜マラソンの前日受付に行った。日本大通りが最寄りだったのだが、間違えてみなとみらいで降りてしまった。みなとみらいには夜景、観覧車、ウォーターフロント、若さ、カップル、大学生と、この世の幸せのあらかたが詰め込まれていて、ちょっと面食らって…

ババ抜きの罪悪感

会議とか調整とか、ツマラナイことに勤しんでも、自分にとっての「資本」にはならないから、うまく回避して、「資本」としてレバレッジが効く業務に集中しようぜ、という旨のツイートが、僕のタイムラインに流れてきた。わかる。あの上司はオレンジ色が好き…

これは君のビジネスだから

仕入先の親父さんに「これは君のビジネスなんだから」と言われたとき、目が覚めるような思いがした。 夏の終わり、大田市場そばの雑居ビルで僕は、仕入先と打ち合わせをしていた。徐々に売上は伸びています、もっと数字を作りたいので新たな取組に着手してお…

終わりなき日常を生きる

部屋を片付けていたら、宮台真司『終わりなき日常を生きろ』の文庫版を発掘した。 自分がどう振舞えばよいか、規準が失われてしまった社会で、コミュニケーションスキルの高さによってひたすら相対的な日常を泳ぎ続ける道と、なにか規準がないかと彷徨い続け…

壊れる

今年は色々なものが壊れる。 泳いでいるとき、無理な動作で水を掻き切って広背筋を痛めたのは4月。 自転車で青森まで行った際、前傾姿勢を取り続けて首の神経を痛め、指先がしびれることになったのは5月から。 横浜トライアスロンのバイクパート、開始500m…

山に登る

実家から歩いて15分くらいの高台からは金沢の町並みが一望できて、僕はその景色がお気に入りだった。高台の斜面には畑が広がっていて、畑の向こうには並木のきれいな幹線道路が走り、その向こうは海まで町が続いている。 高校生だった僕は、この景色を守る仕…

転んだ

大田市場からの退勤途中、乗ろうと思ったバスにタッチの差で乗りそびれ、次のバス停で追いつこうと走り出した瞬間、足がもつれて派手に転倒した。 左手に握っていたiphoneはガラスが粉々になり、中のパーツがむき出しになった。右手は手のひらを思いっきりレ…

ジムの帰りに、学芸大学駅前の八百屋で桃を買った。3個で600円、今の稼ぎを考えると贅沢品なのだが、これも芸の肥やしだと、自分に言い訳をして財布を開く。 10年前の夏、僕は京都の駿台で浪人生活を送っていて、教室に詰め込まれた100人の同類を前に、現代…